第25章 ジャンヌ・ダルク
「……何故、彼女の為に、君が僕に勝負を挑もうと?
…香澄がいなければ、君の生活は居心地いいものになるだろう?」
「…私は、今のままの生活が、楽しくて仕方ありません。
優希がいて、水樹ちゃんがいて、香澄さんがいて、部活の皆さん・クラスメート達、そして…
赤司征十郎さんがいる。
何一つ、欠けて欲しくない、大切な人たちです。
そのことを征十郎さんに、分かって欲しかったんです。」
偽りない、私の思い。
征十郎さんがまた目を閉じ、私を見据えた。
「……“俺”に、どうして欲しい?」
「香澄さんを、この学校に居させてあげてください。」
「……。」
征十郎さんは私を見つめた後、黒馬を走らせた。
それは、2択の中の1つ。
「美琴。
君はやはり、ジャンヌ・ダルクだよ。
白軍に、勝利をもたらした。」
私は、白馬をキングの元へ動かす。
「征十郎さん、ありがとう。
チェック・メイト。」
爽やかな風がカーテンを揺らした。
時間は、6時15分。
そろそろ、朝練の部員達が登校してくる時間。
征十郎さんは優雅に立ち上がり、歩き出した。
「征十郎さん。」
「朝練の時間だ。…大丈夫、約束は守るよ。」
教室の扉に手を掛け、私を振り返ってくれた。
「美琴も、遅れないようにね。」
そう言って微笑んだ征十郎さんに、私も笑みを返し、手を小さく振った。