第25章 ジャンヌ・ダルク
[征十郎]
彼女は、俺(僕)達に気づいていても、無理に詮索することもなく、全てを包もうとしてくれた。
さっきのチェス。
美琴の手は、自分の駒で俺を誘導して、俺の駒を一つも手にすることなく、進めた。
まるで、両手を広げた美琴が、俺を抱き締めるような形だった。
そして、決めの手。
あの手は、諸刃の手。
俺がクイーンを捕れば、彼女の負け。
黒馬で塔を捕れば、俺の負け。
通常の勝負なら、あの手は使わない。
相手に勝敗を、選ばせる手だから。
でも
だから、彼女は、あの手を使った。
俺に、「理解して欲しい。そして、選んで欲しい。」と、選択を託した。
「……どうやら…俺は、聖女を愛したみたいだ。」
朝の日が入る廊下を歩きながら、胸に広がる暖かい思いを感じた。