第3章 春の日の散歩 [前編]
【征十郎】
「わぁ……、花びらですね。」
注文を終えると、彼女が小さい声で呟いた。
「あぁ、桜のお茶だね。季節だからかな。」
俺は気にならなかった桜の花びらに感動しているのか、ゆっくりお茶を楽しんでいる。
外国暮らしなはずなのに、背筋が伸びた美しい正座で、お茶を飲む作法も完璧。
「随分作法に馴れているんだね。」
すると彼女は、湯飲みを静かに置き、俺を見た。
「母の実家で、少し習ったんです。でも、あまり見ないでください。誉めていただけるほど、自信ないので。」
恥ずかしそうに、はにかむ彼女にこちらも微笑んでしまう。
「大丈夫。綺麗な作法だよ。」
そんな話をしているうちに、料理が運ばれてきた。