第3章 春の日の散歩 [前編]
【美琴】
赤司さんに手を引かれ連れてきてもらったのは、日本料理屋さん。
でも、私の頭はすでにパンク中。
『お腹鳴いっちゃったっ…赤司さんに手を繋いでもらって…あーー……』
頭の中で、懺悔に震えていると、着物を着た笑顔の店員さんが、奥の座敷の間に通してくれた。
すると、畳に座布団、床の間がある落ち着いた座敷に、久し振りの日本を感じる。
先程の恥ずかしさも消えて、口許に手を添え、キョロキョロしてしまう。
「椅子の方が良かった?」
一足先に、座敷に腰を下ろした赤司さんが、こっちを見ていた。
「いえ。久し振りの畳なので。」
そういって、履いてた靴を脱ぎ、座布団に腰を下ろした。
「メニューを見る?」
赤司さんが、お品書きをこちらに手渡してくれる。
「赤司さんは決まったんですか?」
綺麗な字のお品書きをゆっくり見てから、赤司さんを見た。
「俺はいつも決まっているんだ。」
そう言って、暖かいお茶を一口飲み、湯飲みをおいた。
「では、私もそれをお願いします。」
「そう?じゃあ…」
赤司さんは、店員さんを呼んで注文をした。
私も、お茶を頂こうと湯飲みを両手で持ち上げる。
「わぁ……、花びらですね。」
湯飲みに入ったお茶に、桜の花びらが浮いていた。
「あぁ、桜のお茶だね。季節だからかな。」
赤司さんはあまり興味がないのか、それ以外は口にしなかった。
『…綺麗……。こういうのを風流って言うんだなぁ…』
温かい桜のお茶を飲みながら、のほほんと料理を待っていた。