第3章 春の日の散歩 [前編]
【美琴】
綺麗な玉手箱が前に置かれた。
そっと蓋を開けると、
「綺麗ですね!」
中に色とりどりの丸いお寿司が入っていた。
「手鞠寿司だよ。」
赤司さんは蓋を開け、箸を持った。
私も赤司さんに倣い、箸を持った。
「「いただきます。」」
同時に発した、いただきますにドキッとして、赤司さんを見ると、赤司さんもこちらを見ていて、二人で何故か笑ってしまう。
「さぁ、食べようか。」
「はい。」
そう言って、和やかな空気の中、昼御飯を食べた。
【征十郎】
「おいしいです。」
目の前で目を細めて笑う彼女がいる。
実は、いつもは違うメニューを頼むのだが、きっとこういうのを好むだろうと思って選んだ、手鞠寿司。
やっぱり彼女は喜んでくれて、ニコニコしながら食事をしている。
『異性と食事を摂るなんて、久し振りだな。』
そう思いながら、箸を進める。
食べ終えて、彼女をみると、彼女も付いていたデザートの柚子シャーベットを食べていて、幸せそうだった。
「甘いものが好き?」
「えぇ、好きです。でも…甘すぎない方が好みです。」
彼女は、デザートを食べ終え、器をそっと置いた。
「この後は何か予定ある?」
「いいえ。」
「じゃあ、少し案内するよ。京都の町を。」
「あの…はい。お願いします。」
彼女は少し驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑ってくれた。
そして、二人で「「ご馳走さまでした。」」と言ってまた少し笑って、席を立つ。
『ゆっくりした時間だな…』
店を出て、彼女へ手を差し出す。
彼女は俺の手を見て、ハテナを飛ばす。
「行こう。」
彼女はおずおずと手を重ねた。