第25章 ジャンヌ・ダルク
「君から。」
「…ありがとうございます。」
私は、少し笑って、白の駒を動かした。
「チェスは得意?」
征十郎さんが、優雅に黒の駒を動かす。
私も、白い駒をゆっくり動かした。
「得意という程ではないですが、好きなんです。」
征十郎さんは手を止め、私を見つめた。
「俺も好きだよ。チェスは中世の戦争に似ていて、自分が馬を轢いて、軍を指揮している気持ちになる。」
「そうですか。」
「…君は、ジャンヌ・ダルクみたいだね。」
そう呟いた征十郎さんは、再び黒い駒を動かし、白の駒を捕る。
「ジャンヌ・ダルクですか?…私は、フランスではなくて、ドイツからきたんですが…。」
征十郎さんの思い違いに、困った顔になってしまったけど、頭は冴えている。
思い通りのところへ、白馬を走らせる。
すると、征十郎さんが口許に手を当てて、笑い出した。
「いや、失礼。覚えているよ、君がドイツから来たことは。…ただ、君が聖女のようだと思っただけだ。」
「聖女?」
征十郎さんの言葉に、首を傾げると、征十郎さんは綺麗な指で駒を進め、また私の駒を捕る。
「…傍にいると、誰もが君に癒される。…そして、誰もが美琴を好きになる。」
「そんなっ…。」
あまりにも畏れ多くて、私は顔が赤くなるのを感じた。
「俺は、嘘は言わない。」
真っ直ぐに私を捉える瞳に、胸が高鳴る。
ドキドキする胸に手を当て、チェス盤を見た。
白い私の陣形。黒の征十郎さんの陣形。
私の狙いはただひとつ。
私はまた、駒を動かす。