第25章 ジャンヌ・ダルク
[美琴]
朝靄が掛かる校庭を、教室の窓から眺める。
朝5時。
征十郎さんとの約束は、5時半。
朝練は、6時半から。
私は、自分の席にゆっくり座り、自分が持参したチェス盤を見下ろした。
アンティークの陶器製のチェス盤。
兄と一緒に骨董市に行ったとき、プレゼントされた大事なもの。
私は、白と黒のキングを盤の中央に移動させ、指を止めた。
征十郎さんは、きっと2人いる。
怖いけど……あなたの事……知りたい。
2つのキングを、両手で優しく包んだ。
「…待たせてしまったかな?」
その声に顔をあげると、優しく笑う征十郎さんが入り口に立っていた。
私は持っていたキングを、定位置に戻した。
「いいえ。…こんなに朝早くに来てくださって、ありがとうございます。」
私はそっと立ち上がり微笑んで、征十郎さんにお辞儀をする。
征十郎さんがゆっくりと、私のもとへ来てくれた。
「おはよう、美琴。」
「おはようございます。征十郎さん。」
「…これは、君の?」
「はい。向こうで兄にプレゼントされたものなんです。」
2人でチェス盤を見つめ、そして、どちらともなく、視線を合わせた。
「じゃあ、勝負しようか。」
「はい。」
チェス盤を挟んで、席に座った。