第24章 勝負してください。
[美琴]
今、目の前にいるのは誰なんだろう…。
香澄は、征十郎さんの剣幕に、血の気が引いている。
私は、自分の両手が震えているのに気がつく。
…人に殺すと、平気で言える人だったなんて…
ショックだった。
でも、今、私は退いちゃいけない。
私は、震える両手を握り、ありったけの勇気で、征十郎さんに対峙した。
「…征十郎さん。私と勝負してください。」
「勝負?」
眉をあげる征十郎さんの顔に、私は真剣にうなずいた。
「はい。…明日、朝練前に私のクラスで。」
「……何で勝負する?」
「…チェスで。」
「…ボードゲームは僕の趣味だが、大丈夫かい?」
「……はい。」
そう言いきった後、何故か私は微笑んでいた。
「知ってます。
趣味が、将棋・囲碁、チェスだって。
ドイツにいた頃、教えてもらいました。
…一度、貴方と、手合わせしてみたいと思っていたんです。」
すると、私を見る征十郎さんの目が、心なしか優しくなったような気がした。
でも、すぐにあの厳しい眼差しを向けられる。