第3章 春の日の散歩 [前編]
【美琴】
赤司さんと京都の町を歩く。
途中、桜の花びらが空から降ってきて、顔をあげると、桜の木があった。
「桜は好き?」
前を歩く赤司さんが、こちらに振り向いてくれた。
「はい。…母が、こちらは、桜が咲いて綺麗だといっていて…。本当に綺麗ですね。」
そういう言って赤司さんを見ると、赤司さんは目を細めて、桜の木を見上げていた。
桜の花びらが、赤司さんをヒラヒラと包んでいる。
『なんて綺麗なんだろう…』
私は、赤司さんの顔から目が離せなかった。
【征十郎】
寮に迎えに行くと、昨日とはまた雰囲気が違う彼女。
どう距離を保てばいいのか分からず、部活のように先導して歩いているが…
彼女は黙って後ろを歩いてきている。
『歩調を合わせようか…』
そう思って彼女の方を振り向くと、彼女は空を見上げていた。
俺も上を見上げると、桜の木があった。
「桜は好き?」
彼女に話しかけると、彼女は俺を見て笑いかけた。
「はい。…母が、こちらは、桜が咲いて綺麗だといっていて…。本当に綺麗ですね。」
そう言う彼女は、本当に綺麗に微笑んで桜を見上げた。
そして自然と俺も、桜に視線を向けていた。
『…花を見上げて、綺麗だと思うのも、久しぶりだな。』
ゆっくりした時間が流れ、ふと下から視線を感じると、彼女がこちらを見ていた。
「何か?」
「あっ、いえ。なんでも…」
彼女は頬を染めて、眼鏡をかけ直す仕草をしている。
くーぅ。
すると、彼女のお腹が鳴いた。
彼女は顔を真っ赤にして、慌てた様子で両手でお腹を抱えてしまう。
「ごっごめ……っ」
俺はそんな彼女を見て、笑ってしまった。
「ふっ。…早くお昼を食べようか。俺もお腹が空いたし。急ごう。」
俺は彼女の手を引いて歩き出した。