第23章 似た者同士
「ちょっ?!貴女っ!!」
香澄さんの驚く声が、耳元に聞こえる。
でも、絶対離さない。
離しちゃいけない。
「…香澄さん。
香澄さんは、それでいいんですか?
こんな、自分の気持ちも伝えず、身を退けるんですか?
そんな…そんな悲しいことしないでっ!!」
私の腕の中で、もがいていた香澄さんの動きが止まった。
私は更に、腕の力を強めて抱き締める。
暫く抱き締めていると、ふと、征十郎さんの笑顔を思い出した。
出会ったときの笑顔。
「……征十郎さんは………いけずな人ですね。…私たち、大変な人を好きになっちゃいました。」
そう呟く私に、香澄さんが微かに笑ったような気がして、私も微笑んで、クスクス笑ってしまう。
「…私たち、恋敵がこんな風に抱き合って、笑うなんて……どうかしてるわね。」
香澄さんの声が、私の耳に柔らかく響く。
私は、またクスッと笑い、肩口でうなずく。
「まったくですね。
…でもきっと、私たち、似た者同士です。
いい友達になれると思うんですけど、どう思いますか?」
「友達?」
「はい。だって、同じ人を好きになったんですよ?
きっと、気が合うんです。
私、香澄さんをもっと知りたい。
そして、出来るなら、友達になって欲しいんです。」
私は、そっと腕を緩め、香澄さんの手を包み、見上げた。
すると、香澄さんは驚いて目を見開き、私を見つめてくれる。
そんな香澄さんが可愛くて、素敵に見えて、私は自然に笑顔になってしまった。
「……貴女は…変な子ね。
思えば、…初めてあった時から、私は貴女が好きじゃなかったわ。
だって、私は貴女みたいに、素敵に生きれないから。
だから……分かっていたのよ。征十郎様は、貴女を選ぶって。」
香澄さんの目から、また一滴涙が落ちた。
でも、その顔はふっきった笑顔になっていて、私の手を握ってくれた。
「だから、私は退くわ。
征十郎様のお相手は、貴女よ。……こんな形で出会わなければ、貴女がいう、友達になれたかもしれない……でも、実家に帰るわ。これ以上、家の恥になりたくないの。」
香澄さんが寂しそうに微笑んで、私の手を放そうとしたので、私は、その手を握り直した。