第9章 初めてのキス
[涼太]
予感はあった。
あんな風に、俺と話をしてくれる女子はいなかったから。
バスケットを本気でプレーする俺を、真剣に撮っていてくれたから。
その写真はすべて、心情までとらえた、渾身の写真で。
そして、いつからか、廊下に貼られる校内新聞を、楽しみにしてる自分がいた。
新聞の写真を見るたびに、美空っちのことを考えて。
三年生の教室に会いに行くと、何だかんだで俺の話を聞いてくれて。
そして、今、俺を見て、すっげー綺麗に笑うから。
気がついたら、美空っちに全部持ってかれてた。
「俺、美空っちのこと、好きっス。
俺と付き合ってください。」
驚いて停止している美空っちの両手を、そっと俺の手で包んで握る。
「!」
美空っちが、ボンっと頭から湯気を出しそうな勢いで、赤面した。
「えっ!えっ!!」
アワアワと焦っている美空っちを見ていると、なんか面白くなってきて、笑う。
こんな顔、はじめて見る。
好きな人の新しい一面は、こんなにも嬉しいものなのか…。
俺は、胸があったかくなるのを感じる。
すると、美空っちが赤い顔をしたまま、小さい声を発した。
「ご…」
「ご?」
俺は美空っちの顔を覗き込み、小さい声を聞こうと耳をすました。
「ごめんなさい。」
「ごめんなさい…?…え?え?!」
言われた意味が分からず、俺は放心した。
「黄瀬くんには、もっと素敵な人が現れる。だから、ごめんなさいっ。」
そういって、俺の手をほどいて、ダッシュで帰ってしまった。
「俺……フラれ…た?」
さっきまで感じていた幸福な思いが、一気に崩れ去る。
「俺、フラれるのはじめてっス…。」