第9章 初めてのキス
[美空]
黄瀬くんにキスされた。
黄瀬くんに告白された。
ダッシュで家に帰宅し、カメラケースを床に下ろす。
明かりのついていない、家。
今日は、看護士の母も夜勤でいない。
一人の夜だった。
私は、気持ちを落ち着かせようと、玄関で荒くなった息を整えた。
そして、冷静になってきた頭で考えた。
私…黄瀬くんを、フッた。
『黄瀬くんには、もっと素敵な人が…』
私はそう言った。
靴を脱いで、カメラケースを抱え、二階の自分の部屋に引きこもる。
私の部屋は、父が撮った数々の写真が貼られている。
そして、自分の勉強机の横にある、作業机。
そこに、カメラケースを置き、椅子に座る。
力が入らない手で、作業机にあるパソコンの電源を入れた。
作業台には、カメラの部品や、レンズが並んでいる。
私は、今日撮った写真を読み込み、マウスを操る。
そこには、試合最後に叩き込んだ、ダンクする黄瀬くん。
他にも、ドリブルをする黄瀬くん。
パスする黄瀬くん。
満遍なく、他の選手も撮っているつもりでも、やはり黄瀬くんの写真は多い。
マウスを操作する手が止まった。
試合終了後、黄瀬くんが笑った瞬間の写真。
…私は、黄瀬くんが好き。
でも、自覚したらいけない感情。
プロになるなら、被写体に恋しちゃだめ。
私は、画面に写る黄瀬くんを、指先でそっとなぞった。