第33章 コートとファインダーの距離
「いつもここから、俺の事撮ってるんスね。」
いつも私がいる撮影場所に、涼太が両手でアングルポーズをとっている。
「結構こっからだと、美空が小さく見えるけど、よくあの写真、撮れるっスね。」
「……涼太……?」
「ん?なんスか、美空。」
涼太は、私に笑顔を向ける。
私はどう言葉にしていいか分からず、涼太を見上げるだけになってしまう。
「…ねぇ、美空。
美空は、この距離に戻りたいんスか?」
「……この距離?」
「そ。コートと2階席。この距離。」
涼太はクルっと後ろを向いて、手摺に背中を預ける。
「……距離を取るって、そういうことっスか…?
…俺バカだから、実際、どういう距離か分かんなくて…。」
「……涼太…。」
私は涼太の背中を見上げ、胸に込み上げる気持ちが痛い。
私は、今涼太がいる場所で、いつもコートの中を撮っていた。
ファインダー越しに、いつも涼太を見つめていた。
この距離に戻る。