第3章 見えなくとも傍らに
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魂の片割れ。
突拍子もない答えにダリューンは閉口している。
つい先刻、空が白んで朝日が差し込む中、アルスラーン達はのろのろと起き出した。
最後に火の番を終えたダリューンは、火の始末をしていた。
煙を手で払いながら土を被せ、アルスラーン達を起こそうと声を掛けようとして、不意に繋いであった馬たちを見る。
(…ソキウスは)
あの馬はカナヤが愛馬として可愛がっていた。
慣れないながらも乗馬をそれなりにこなし、彼はそんなカナヤをサポートするかのように振る舞う。
まるで兄妹か何かにも見えて思わず笑ったものだ。
あの日、エラムが憔悴しきった顔でソキウスを率いて帰ってきた時は、カナヤの姿がないことに頭を金槌で殴られたような気分だった。
エラムが経緯を話す中、そんなことより探しに行かなければ、それしか頭に浮かばなかった。
カナヤを助け上げ、暫くは共に旅をしてきた。
記憶喪失ながら、彼女は健気にも打ち解けるために率先して手伝いをしてみたり、この国や殿下の目的など沢山質問をしてきた。
カナヤにとって読めぬ相手だったのだろう、ナルサスを警戒していたようだったが、それでも壁を崩すように会話を持ちかけていたように思う。
器用で不器用。
カナヤの振る舞いはその言葉のようだった。
オレ自身も随分彼女の存在に助けられたように思う。
無垢そのものなカナヤに危うさも感じ、しかしそれにも惹かれていたのだ。
そんな彼女の、魂の片割れと目の前の男は言う。
身長の割に細い体躯で、顔が酷く整いすぎていて身震いする位だ。相手が男と認知するだけの背丈と声、それ以外は女のような奴だ。
放たれる言葉に不遜なものを感じて不快になり、突き付けた槍が僅かにブレる。
それを見透かしたように鼻で笑うこの男は、後ろに控えていたナルサスへ目線をやった。
「彼がいい。ナルサスだっけ?話をしよう。この中で話が出来そうなのは、彼だけみたいだしね。あと」
さらに隣のファランギースを見ると、ソキウスを撫でながら、見るものをドキリとさせるような笑いを向ける。
「ファランギース、君はジンと通じることができるよね。僕の言葉に嘘があるか否かを、彼らに聞いてみるといい」
こちらの気持ちなどお構い無しに話をするこの男に、眉間のシワが寄った。