第3章 見えなくとも傍らに
ダリューンのショックそうな声に続き、エラムの辛辣な評価にギーヴは頭に疑問符が浮かんでいるようだ。
そんな中、アルスラーンだけが妙に納得した様に頷いている。
「色々あるんだよカナヤには。出来れば彼女を深く詮索しないでくれると有難いかな」
「まあ私は会ったことはないが、その…くらい、という言い方が気になるのう。詮索するなと申すが、あまりにも不確定要素がこう多くてはな」
ファランギースの言い分はもっともである。
ましてやカナヤと会ったことがない者からすれば、カノンの存在そのものも信用するにはこれだけでは足りないのだ。
首をかしげて思案すると、ポンと手を叩いて一つ提案した。
「僕を護衛にでも小間使いにでもするといい。一通り武術だって使えるし、カナヤほど不器用でもないからね、使えるはずだよ。信用に足りないと判断したら、君たちの剣で刺し殺したらいい…ま、殺されるつもりもないし、絶対に信用させるけどね」
何がどうでもアルスラーン達と行動を共にするつもりらしい。向けられる笑顔を胡散臭いと思いつつ、何故か妙に納得してしまった(カナヤの特徴あたりで)彼らは幾分か毒気を抜かれてしまったようだった。
「……分かった。だが途中で野垂れ死にしても放っておくぞ。付いてくるなら自分の身は自分で守れ。もちろん変な動きをして見ろ、その場で切る」
「構わないよ、それで」
ナルサスと頷きあったダリューンは、最後の言葉をことさら強く言い放った。
彼らのみが認知する存在であるカナヤ。彼女を知り、味方になる者がいるのなら幾分か安心なのは確かだ。このあたりは不確定要素だが、加えて戦力になり得るのなら願ってもない増援だ。様子を見るに味方になり得るだろうと踏んだナルサスだが、毛を逆立てて威嚇する動物のようなダリューンに苦笑せざるを得ない。
「ま、ただの筋肉バカではなかった、という事かな」
「何か言ったかナルサス」
「空耳だろう」
緩くなった雰囲気にカノンは少しだけ息を吐いた。
全く、カナヤには毎回手を煩わせられる。手の掛かる娘を片割れに持ってしまったモノだと思った。
同時に彼女の存在が彼自身にとり、無くてはならないのだと強く思う。
自分を認知したカナヤの反応が楽しみだと、一人また微笑したのだった。