第2章 レーゾンデートル
(せっ、狭い!そしてむさくるしいッ!)
窮屈な箱部屋の中に、男が4人。
無理矢理敷き詰められたようなベッドが並び、ダリューン、ナルサス、ギーヴ、エラムは押し込められたといった具合だ。
一人旅が染み付いたギーヴにとっては不快極まりない。美女ならこの狭さも寧ろ大歓迎だったというのに。
隅でひきつりながら唸る彼を尻目に、エラムは「ちゃんとした寝床で寝るのは久しぶりですね」とどこか嬉しそうにしていた。
(ちゃんとした寝床より美女がいい)
ギーヴの基準は、常に女にあるようだ。
アルスラーンとファランギースには個別に部屋があてがわれた。
ダリューンはアルスラーンを守る為に扉の前で寝ると言ったのだが、カシャーン城砦の主ホディールは兵をつけるから大丈夫だと言い、それを許さなかった。
歓迎の宴はそれはそれは豪華なものだった。
エラムは見慣れぬ料理に舌づつみを打ち、果たして何で出来ているのだろうと匂いを嗅いだり舌触りで確認したりと忙しいようだった。
大人達は葡萄酒(ナビード)で喉を潤し、その上質な味に溜息をつく。贅を尽くした歓迎ぶりに、ナルサスは黙ったままホディールを見やった。
アルスラーンの側で耳打ちするように何かを話している。
その様子に眉根を寄せるが、気づかぬふりをしてナビードを煽った。
どうせロクでもないことでも吹き込もうとしているのだろう。しかしアルスラーンがそれに易々とのるほど軽薄な王子ではない。
来た早々羽を休められそうもないな。ため息をついて残った酒を飲み干した。
そんなことがあったのはつい先程の事。
ナルサスの読み通り、天井裏を探っていたエラムの手に握られていたのは、眠りを誘う香であった。
「やはりな、あのホディールという男、やたら口は回るし胡散臭いと思ってはいたが、なるほどな」
「しかし、これで殿下を傀儡にしたいという意図が見て取れたわけだ。この香でもって我らを襲い、あるいは殿下自身をも…」
「うむ、おそらくはその通りであろう」
ダリューンが苦々しく吐いた言葉に同意をしたナルサスは、その香を鼻の近くに寄せた。
それは僅かにだか花のような匂いがしている。
ふん、と鼻で笑うと、ギーヴへそれを手渡した。
「…殿下もおそらく似たようなことを考えておられるであろう。話し合う必要があるな、頼めるか?」
「このギーヴ、殿下の為ならいつでもたのまれましょう」