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キンモクセイ【アルスラーン戦記】※不定期更新

第2章 レーゾンデートル


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夢を見た。
少し色褪せた夢を。

私は部屋で独りで遊んでいた。使い古されたような積み木を弄び、独り言のように喋りながら時折笑う。
そうこうしているうちに、男の人に声をかけられて後ろを振り返った。
背が高くて優しそうな人。握られた大きな手が温かくて、私は安堵していた。
一回りも二回りも小さな私の手を愛おしげに握ると、彼は何かを呟いた。

「──、今は──。必ず、……ね」

ノイズが邪魔をしてよく聞き取れない。
もう一度聞き返そうとしたが、その手は離れて行ってしまう。

(嫌だ、独りにしないで、お願い、カノン)

「…っあ」

急に視界が開けて、夢を見ていたのだと悟った。
涙が出ていたらしい、目元が冷たくて指で慌てて拭おうとした。
したのだが。

はたと意識が固まる。
目の前の黒い物が邪魔をして腕を上げられない。
視線を下にして目に付いたのは、逞しい腕に抱えられた己の肢体。
上に向けて見えたそれに、声も出なかった。

(なっ、なっ、なななんでこうなってるんだ!!)

確か私は食事して満腹になって、椅子で寝たはず。
それがどうだ、ヒルメスに向かい合って抱きしめられながら目が覚めたのだ。
寝覚めが云々どころじゃない、心臓に悪すぎる!
いつもなら寝ていても放置しているのに、なんだって今日はこういう事になっているのか。
抱える腕の力が強いし、何より今起きられても困る。
強ばった身体をどうにか落ち着かせると、一息溜息を吐いた。

(…間近で見たら本当にデカイなこの人。ムキムキだし、こうして寝てりゃ大人しいのに…って当たり前か)

目が覚めてないのをいい事に、ジロジロと観察しながら内心で呟く。
本人が一番気にしているらしい顔の火傷も、痛々しいとは思いこそすれ、醜いなどとは到底思わなかった。

(醜いのは何時だって、人の心の方だ)

それは自分自身も然りだと思う。
私怨で動いているであろうヒルメスに同意こそ出来ないが、それを非とも思えなかった。
よく見ると、端正な顔立ちをしている。下世話な話、火傷云々以前にその性格をなんとかしたらモテるんじゃないですかね?そんな事を思いながら、どうやってこの状況から脱出するかを考えていた。
相変わらず、起きる気配が皆無だ。

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