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キンモクセイ【アルスラーン戦記】※不定期更新

第2章 レーゾンデートル


(ふむ、アルスラーン殿下のみならずエラムもか。果てにはダリューン卿までとは…どんな女なのか)

パルス歴320年、秋も終盤に差し掛かった頃。

アルスラーン達は、ニームルーズ山中にある城塞、カシャーン城主に助力依頼のために馬を走らせていた。
ダリューンと言えば、愛馬シャブラングを駆けて先に赴く手筈となっており、今アルスラーンの元にいるのは4人ばかりなのであった。

そのうちの1人ギーヴという男は、美丈夫を自負する赤紫の髪が特徴の紅色家だ。といっても手当り次第ではなく、彼の御眼鏡に叶った女だけがその腕に抱きとめられる権利を得られる訳だが。
そんな彼が女の話を気にしないわけがない。
事に、3人の男をこうも思案顔にさせる相手とはどんな人物なのか。どうやらはぐれてしまったらしく、迂闊に話題に出すわけにもいかないギーヴは、勝手に妄想を膨らませるばかりなのであった。

「追手の数は?」

「5百といったところか」

「ちと多いな。4百なら俺1人でもなんとかなったかも知れぬが…」

彼らは運悪く見回りか何かに来ていたルシタニア兵に見つかってしまい、現在絶賛逃げている最中だ。
そんな中でも飄々とした態度を崩さずに冗談ともとれぬ戯言を吐く姿に、ナルサスは閉口するばかりである。

「随分と余裕じゃの、ギーヴ殿」

玲瓏な声が冷ややかに耳に届く。
声の主を見て、彼はおどけて片眉を上げた。

長い黒髪と黒曜の瞳を持つ美しい女─ファランギースは、呆れたように呟く。
彼女はフゼスターン地方にあるミスラ神殿に仕える神官であり、此度のアルスラーンの危機を助けるべく馳せ参じた次第である。
神官の割にはおよそ慎ましさに欠けるその服装は、しかし纏う荘厳さ故にいやらしさは感じられない。

長い睫毛を瞬かせて、ファランギースは前方を見やる。
彼女達の行く手には、眩いばかりの日が溢れんばかりに輝いていた。

(これならば目くらましに丁度よかろう)

すました顔で弓を番えると、後方に向かって一矢放った。

「ぐえっ」
「あっ、おのれ、女ァァァ!!」

二矢、三矢と正確にルシタニア兵を撃ち落としていく様に、ギーヴはひゅうと口を鳴らす。
ファランギースに倣い、矢を放つと不敵に言い放った。

「馬鹿め、騎馬技術に秀でたパルスの民に敵う訳なかろう!」

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