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キンモクセイ【アルスラーン戦記】※不定期更新

第1章 その香りの先に


探す宛のないものを無闇に追えば、次に危険なのはエラム自身だったからだ。
仮に捕まったとして、さらにアルスラーン自身にも危険が及ぶ可能性もある。
正直な話、ナルサスからすれば出会って間もない娘など、エラムに比べればさほど大事なわけでもなかった。
気にしていたのは、実は記憶喪失を偽り、コチラの情報を敵国に渡されはしないのかという事。
誰よりも冷静で頭が回る分、そういった穿った見方をしてしまうのも仕方が無い反面、だったらなぜあの時一緒に来ることを許してしまったのだろうという疑念も残る。
ナルサス自身にも良くわからなかった。
ただ、やはりカナヤが嘘をつくようには見えなかったのだ。
珍しく他人と距離を詰めるエラムにも驚いていたし、なによりあの瞳が全てを物語っているように思えたのだ。

「全く、らしくもない」
「…ナルサス?」
「いや、何でもない」

対するダリューンこそあれ以来話題にも出さずにいるが、恐らくナルサスよりずっと気にして、いや気が気でないはずだ。
本人は気が付いていないようだが、ため息の回数が増えて物憂げな顔になることが多いのだ。

ダリューン自身、落ち込んだアルスラーンのためにとなるべく話題にならないように気をつけてはいるのだが、思い出さずにいられないのはあの笑顔だった。
アルスラーンのためと言いながら、実は自分自身のために無理矢理蓋をしていることは自覚している。
たった数日なのに、彼女の存在がしっかり心に焼き付いて離れないのだ。

(不思議な娘だ、何故こうも心を揺さぶられる。…無事に会えたなら、こんな気持ちにさせた分文句の1つくらい言わせて貰おう)

なんとなく、なんとなくだが、彼女が無事である気がしてならない。
会えたならその手を絶対に離すまいと、心に誓うダリューンであった。


──────────────────


「お前、今カナヤの事を考えていただろう」
「なっ…いや、俺は別に…!」
「まあそう否定するな。むさくるしい脳筋のお前にも、一つや二つくらい色のある話があってもいいだろう。しかし年下か…まあ、悪くは無いんじゃないか?」
「ぐぐ…ナルサスお前、俺で遊んでるだろう!!」
「おっと、そんなに声を荒らげたら行動に支障が出る。自重したまえ」
「ナルサス…お前許さん、断じて許さん」
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