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キンモクセイ【アルスラーン戦記】※不定期更新

第1章 その香りの先に


暫く馬を走らせて着いたもぬけの殻の民家で、一行は一夜を明かす事にした。
家人がここを離れてそこまで経たないのであろうか。
ルシタニアの兵によって近隣の村の家々は強奪や破壊をされてしまったらしい、辛うじて生活感が残るこの家を、彼らは宿替わりにするのであった。

もぬけの殻とはいえ他人の家を漁るような真似は些か気も引けたが、この場合は致し方ない。
諦めにも言い聞かせるようにも思える言い訳を呟いて、カナヤは衣類を確認していた。

(風呂入りたい…)

隠れるように移動を繰り返すばかりで、およそ清潔とはかけ離れた逃亡生活。せめて服くらいはと思っていた。

(大衆浴場があるらしいけど、混浴云々言ってたから嫌すぎる。水風呂ならぬ沐浴のがマシだわ)

ブツブツと不満を漏らしながら見つけたのは、明らかに女物の服が数枚。
聞くに、体に巻き付けたり頭から布を被ると言うのだが、カナヤはいいや、とエラムに突き出した。
彼らと共に行動しだして本人も気付いたのだが、どうもカナヤは女性らしさに欠けているらしい。
動きや言動が、まるで少年のよう。
見た目が中性的なせいもあるのだが、黙っていれば中々の美少年のように見えるのだった。

「慣れてきたのがいいのか悪いのか。最近色々と雑ですね」
「そうかなぁ、そんなつもりはないんだけど。エラムこそいい加減その敬語止めてくれないかな」
「これは仕様です」
「はあ、さいですか…」

カナヤとエラムは遠慮がなくなってきているようで、傍から見たら姉弟に見えなくもない。
アルスラーンがそう言うと、エラムは少し不機嫌になってしまうのであった。



「偵察?」
「さよう。エラムにはエクバターナへ潜入してもらい、情報収集をしてもらおうと思ってな」
「面白そう」
「…あなたは一部始終を聞いていてそれですか」

ナルサスとダリューンの意見により、エクバターナのバザール(市場)へ紛れ込み、そこで現在の状態をエラムが確認するということなのだが。
黙って聞いていたカナヤが目を輝かせて付いていきたい!などと言うものだから、皆で総出で「ダメだ!」の一喝を食らっている。

「私はここを知らないし、少しでも自分に繋がる情報が欲しい。今のままじゃいつまで経っても何もわからないまま、死んでるのと一緒だよ」
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