第1章 その香りの先に
少し頬が上気したカナヤの笑顔に、一同は目を見張る。
特にダリューンとアルスラーンに至っては、白々しく目を泳がせるものだから、ナルサスは笑いを必死にこらえていた。
「まあとにかくだ、当面我々と共に来ていただく他ありませんな。当然頼るものもいないでしょうし」
「はい、お返しするものもないんですが出来ることはしますので、これからよろしくお願いします」
精一杯の笑顔で皆を見たカナヤは、さて何で恩返しをしようかと思考を巡らせるのだった。
「それに、何やらエラムとは仲が良くなったようで」
茶化すようにそういうと、戻ってきたエラムにカナヤ以外は一斉に目線を向ける。
「なっ、ナルサス様!気付いていたんですか、人が悪い!あれは事故です、事故!あんな格好になったのも元はといえば彼女のせいです!!」
「ほう、あ ん な 格 好 とは」
「んがっ!」
(墓穴・・・)
顔を真っ赤にしたエラムを無視して、出されていた冷めた茶を黙って啜るカナヤであった・・・。
「そんなことより!当然私も連れて行っていただけるのでしょう?!」
片膝をついて話を進めるが、とたんにナルサスは顔色を曇らせて同行を拒否するような口ぶりになる。
ひとえに彼の身を案じてのことなのだが、エラムは一歩も引かない。
助け舟を出すようにダリューンは武の才能を褒めるのだが、それでもナルサスはうんとは言わない。
そこへ、流れを変える一石がアルスラーンより投じられる。
「エラムほど美味な食事を作れるものが他にいるのか?」
一同は目を見合わせると頷きあったのだった。
荷造りをするというエラムに続いてアルスラーンも手伝いを願い出る。が、それは当然のごとくあしらわれてしまう。
カナヤも言わずもがな、「病み上がりは大人しくしていださい、道中倒れられても迷惑なだけですから!」とにべもない。
アルスラーンと顔を合わせると苦笑いしあう。
その様子を見ていたダリューンとナルサスは、二人がアルスラーンにとって良い友だちになるのではと微笑ましく見守るのであった。