第1章 その香りの先に
その笑顔に少し心拍が上がったような気がしたエラムだが、それは無視することにした。
「あ、でも私何歳か分からないんだよなぁ・・・何歳なんだろう、エラム、私何歳に見えます?」
「はぁ?あなた本当に何も覚えてないんですか?」
「ええ、まあ、名前位なら・・・・」
手を額に当ててため息を付いたエラムは困り顔だ。
しかし、本当に何もわからないのだから二の句も告げようがない。
そんな様子に嘘とは思えなかったのだろう、再度溜息をつくのだった。
「そうですね・・・私が13なのですが、あなたの見てくれだけなら16~18ってとこでしょうか。女性の割に少しばかり背も高めですね」
「ふぅん・・・」
顎に手を当てて考えると、手をぽんと当てて言う。
「じゃあ私はエラムのお姉さんってわけだ!」
急に態度が一変したカナヤにエラムは目を丸くする。
立ち上がってエラムの手を取ると、その手をブンブンと振ってよろしく!とそれは嬉しそうに挨拶をした。
「だ、誰がお姉さんですか!大体さっきのは推測でしょう、決まったわけじゃありません!」
「・・・つれないなあ」
「さあ、もう邪魔ですから出て行って下さい!これだけ油を売っていればナルサス様達のお話も一段落つく頃でしょうし!」
グイグイと背を押して追い出すようにしながら、最後に一つ付け加えた。
「・・・決して嘘はおっしゃらないで下さい。私はあなたが嘘を付いているとは思いませんが、ナルサス様は私の恩人なのです。極力問題ごとを抱えてほしくはないのです」
極力、というのはカナヤの事情に配慮しての言い回しではあったが、そこには彼なりのナルサスへの親愛の情が見て取れたカナヤは真剣な眼差しで返す。
「わかってる。信用してもらえるかわからないけど、私の精一杯をちゃんと伝えてくるよ・・・エラムにも信用してもらいたいしね」
「・・・」
「私のことはカナヤって呼んで。そのうち信用できるって思ったら、炊事の手伝い許可してくれたらなって」
「調子に乗りすぎです」
言い終わらぬうちにバッサリと切られて苦笑を漏らす。
少しだけ頭を下げてその場を後にしたのだった。