第1章 その香りの先に
エラムから催促されて少し遅めの朝食を摂ることになった。
「い、いただきます……」
何よりまずはと言われて出された食事はカナヤだけ粥であり、程よい塩加減でとても美味しかった。
衰弱を考慮してくれたのであろうエラムの方を向き礼を述べたのだか、いえ、とだけで実に素っ気ない。
一方ダリューンやアルスラーンは先程のことが引っかかるのか、食が進まないようだった。
部外者である上に話がわからないカナヤは居心地の悪さを感じずにはいられない。
ぼうっとしながら彼らの話を聞くのもなんだか悪い気がして
「あ、あのっ、ごちそうさまでしたお皿洗ってきます!」
一気にまくし立てると、台所へ避難する。
「あっ、そっちは私の領域・・・!」
血相を変えてカナヤの後を追うエラムに腕を掴まれて思わず皿を落としてしまう寸前
「「あっ」」
ほぼ同時に皿を掴もうとしてお互いにぶつかり合い、よろめいてもつれ合うように倒れてしまった。
「いいい、いった・・」
「くっ・・・皿は無事・・・みたいだな」
二人で同じ皿を掴んでいるのを見て、なんとか落とさずに済んだことでホッとしたのもつかの間。顔を上げて目を見開くと、この事態に息を呑む。
エラムがカナヤを押し倒しましたと言わんばかりのこの状況。
顔に息がかかるくらいの至近距離で、お互いの目がバッチリあってしまう。
(ち、ちちち近い!近いって!!)
「あっ、も、申し訳な・・・いやなぜ私が謝らないといけないんですか!!」
赤面混じりに怒り出すエラムに、同じく顔を赤くしたカナヤが吹き出す。
「うっくく・・・ごめんなさい笑ってしまって」
起き上がって何故かふたりとも正座をして向き合う格好になる。
「・・・本当ですよ、どこの誰かもわからないあなたに振り回されるナルサス様達が不憫でなりません!」
「そのことですけど、後でちゃんと説明しようと思ってます。それに、エラムさん・・のお粥、とってもおいしかったです。わざわざ用意してくれたんでしょう?ありがとうございます」
「・・・エラム、でいいです。見たところあなたと歳の差もないようですし」
そっけない返事に少し寂しさは感じたものの、その声色に自分に対する嫌悪は感じ得なかったカナヤは、少し嬉しくなってはにかんだような笑顔になる。