第9章 クリスマス・パーティー
「ほら、涙を拭いて」
滑らかなシルクが頬に宛がわれ、見る間に雫を吸い込んでいく。
「あ…ありがとうございます」
この人は一体誰だろう?と少女の瞳が問いかけていた。
目に映るのは、美しい金色の髪と切れ長の青い瞳。
白磁を思わせる血色を感じさせない肌。
まるでおとぎ話で読んだ孤高の種族、エルフのような男。
彼の声はとても耳に心地よく、さざ波のように広がっていくような気がした。
「ふふ…驚いて涙も止まったかな」
「……そうみたいです」
「それは良かった。Ms.ブルーム…いや、Ms.ミズキだったかな。こんなところで君に会えるとは思ってもみなかったよ」
そう言って彼はキラの手を取り恭しくその甲に唇を押し当てる。
「ひゃっ!」
突然のことにびっくりしてキラは手を引っ込めた。
「あ、あなたは…?」
「ああ失礼。私はルシウス・マルフォイ。スリザリン出身ゆえ、君の先輩にあたると言える」
「まる、ふぉい…」
どこかで聞いたことがある。
それは確か、キャリーとの会話で…。
「聖28一族の…Mr.マルフォイ?」
キャリーが名家中の名家なのよ、と教えてくれたいくつかの中に、そんな名があったはずだ。
目を瞬かせるキラに彼は目を細める。
「あまりこちらの世界を知らないと聞いていたが…勤勉なようで何より。さすがスリザリンの生徒だ」
(…なんか褒められてる気がしない……)
きっと馬鹿にされている…というより、見下されているような。
「それで、あの…どうして私のことを?」
「スラグホーン教授が自慢げに話していたよ。アジア人、真っ黒で真っ直ぐな髪の少女だと。今日、ドレスアップしている一年生の女子生徒で、となれば想像はつく」
ルシウスはキラのエメラルドグリーンの瞳をじっと見つめる。
「おばあ様にそっくりな眼だ」
「え…」
「我がマルフォイ家は君のおばあ様の家…ブルーム家とも親交が深くてね。君とも仲良くなりたいと思っていたところだ」
ルシウスはキラの足元にさっと視線を巡らし、杖を取り出した。
「エピスキー」
ふわ、と足元が温かくなったと思えば、じんじんと鈍い痛みが消えた。
はっとしてルシウスを見れば、彼はすでに立ち上がりキラへ手を差し出していた。