第9章 クリスマス・パーティー
「すみません…ありがとうございます」
擦り剥けていた箇所がすっかり癒えたので、キラはルシウスの手を借りて立ち上がる。
「今後正装することも多いだろうから、今の呪文は覚えておくといい。一部の令嬢はそうしてやり過ごす…もちろん、慣れるのが一番だと思うが」
「これから、ですか?」
どういうことだろうか、とキラが首を傾げればルシウスは彼女の顎をくいと持ち上げるようにして上を向かせた。
「君はブルーム家の令嬢だ。これまでは一般庶民であったかも知れないが、こちらに来たからには令嬢らしく振る舞う必要が出てくる…ということだ」
「え…でも私、一度も祖母の家に行ったことがないですし、全然どんなお家なのかも知らなくて…」
困ったように視線を反らすキラに、彼は美しい笑みを見せた。
「近く、君を我がマルフォイ家に招待しよう。キラ…私は君が気に入ったよ。ブルーム家のことを詳しく教えてあげよう」
どうやらおばあ様は君に色々なことを内緒にしているようだしね――。
ルシウスは確かにそう言った。
(色々なことを、内緒に…?)
どういうことなのか。
そんな言われ方をされては、気にならないわけがない。
「はい……お願いします」
キラの返事にルシウスは満足げな顔をする。
「では、失礼する。…あぁ…ここで私に会ったことは、他言無用だ。決して、誰にも話さぬように。おしゃべりは嫌いでね」
ルシウスは人差し指を立てて自分の唇にそっと当て、その後キラの唇にも触れた。
まるで口封じの呪いのようで、キラは慌てて口元を手で覆い大げさにコクコクと頷く。
「それと…向上心のない者も」
キラの耳元で囁いて、ふふ、と口の端を吊り上げたルシウスは、深緑のローブを翻し颯爽と去っていった。
(…どうしよう……)
残されたキラは、その後姿が見えなくなるまで彼を見つめるしかなかった。