第26章 第二部 謀策
そういえばとんでもなく高いところにいるんだったと思い出して、また足が震えてくる。
「す、座ります……」
「まだ怖い?」
「ソ、ソウデスネ…」
「じゃあこうしよう」
聞きなれた呪文とともにピースの指に嵌めてあった毛皮のリングが大きくなって手を入れる用のマフに早変わりした。
「わ!」
「はい、手袋外して、はい、こっち」
キラの手袋を外せば素肌が冷気に触れる。
すぐさまマフの反対側から伸びたピースの手に引き込まれて、暖かなマフの中で指が絡む。
「嫌かな?」
「い、やでは…ないです」
なんだかドキドキして、少し怖いのが薄らいだような気がした。
そうして、キラは試合開始までの間クィディッチのルールと選手についての講義を受けた。
それから試合が始まったものの……あちらこちらに飛び回る選手達が急降下を繰り返す度、見ていられなくなって小さな悲鳴を上げた。
(だめ、やっぱり苦手…!)
ブラッジャーが痛そうで直視できないし、スニッチはそもそも見えないし、白熱したピースや周囲の生徒がしばしば腕を振り上げては大声を出すので塔が揺れて怖いしで、散々なクィディッチ観戦であった。
どちらが勝ったのか周りの反応で思い至り、キラはとりあえず勝利の余韻に浸る振りをして寮まで帰り着いた。
月曜の朝、いつものように食堂へ向かう道すがらのことだった。
やけに他人の視線を感じて、キラは首をひねる。
いつもの席に腰を落ち着けても、なんだか落ち着かない。
「何なんだろう?」
「何って…ねぇ…」
「完璧に噂になってるわ。いえ、もうこれは噂でなくて事実よ」
キャリーにスプーンをビシッと目の前につき付けられて、キラは「ああ…」とようやくその理由に気が付いた。
魔法界でもマグルでも人の色恋沙汰は大好物ということなのだろう。
「監督生同士のカップルは…結構多いよね…」
「そ、そんなつもりじゃないんだけど」
「あなた、それなりに有名なのよ? ピースに関しては、その…いまいち目立たない存在だけど」
「キャリー…ちょっと、酷い…」
「でも、事実よ?」
「監督生だからって皆が皆目立つわけでもないし、注目されるってこともないと思うんだけどなぁ」