第9章 クリスマス・パーティー
「リリー、聞いてくれ」
「…私、用事を思い出したわ。それじゃ…」
一歩近づいたセブルスを無視してリリーはその場を離れようとする。
「リリー!」
セブルスは必死で手を伸ばし彼女の手首を掴んだが、すぐに振り払われた。
「もう二度と…決して私に近づかないで」
あなたと関わりあいたくないわ。
全身から伝わる拒絶の意志が矢のようにセブルスに突き刺さる。
そのまま遠ざかるリリーの背中を追いかけたいのに、まるで縫い付けられたようにセブルスの足は動かなかった。
「Ms.エバンズ…?!」
一体何がどうなっているのか。
キラは意味がわからなくて彼女に声をかけるが、それも届きはしなかった。
セブルスはそこに立ち尽くした。
これで何度目の拒絶だろうか。
ぎゅっと下唇を噛んで俯く。
彼の心はもうトゲだらけになっていた。
謝りたいと彼女の元へ向かうたびに突き放されて。
誰ともわからぬ呼びかけに応えてくれたあの一瞬しか、彼女の瞳に映ることができなかった。
『セブ!』
幼い頃の記憶が蘇る。
組み分けで別の寮になってしまった自分たち。
それでも、幼馴染としての関係がなくなるなんて考えもしていなかった。
『寮は離れちゃったけど、これからもよろしくね』
にっこり笑って差し出された手はとても温かかった。
それなのに、どうして――。
どんっ、と不意に肩に衝撃が走った。
「っと…悪い…」
誰かの肩が当たったようで、彼はそちらに目を向けた。
「……」
「……」
一瞬の驚きの後、お互いの顔に渋面が広がっていく。
思いがけない相手との接触であった。
先に我に帰ったのは、ぶつかってきた男の方。
「こんなところで突っ立ってんじゃねぇよ。謝って損したぜ」
「…人にぶつかっておいてその言い方とは、よほど躾がなっていないらしいな」
「ハッ! 躾がなってねぇのはどっちだよ。どーせ性懲りも無くリリーを追っかけてきたんだろ。で、また拒絶された…違うか?」
そう唇を歪めて楽しそうに嘲笑うシリウスに、セブルスは言葉を失った。
「図星のようだな。惨めなやつだ」
くくく、とシリウスは肩を揺らす。
セブルスの顔は怒りで真っ赤に染まり、次の瞬間にはシリウスの眼前に杖を突きつけていた。
「黙れ!」
「おいおい…こんなところでやる気か?」