第9章 クリスマス・パーティー
「あ!」
突然のキラの声にセブルスは一瞬ドキりとした。
「セブルス、あれは飲んでもいいのでしょうか?」
キラが指差したのは円卓に並べられているカクテルグラス。
「あ、あぁ。好きにすればいい」
返事もそこそこにセブルスはまたすぐ周囲に目をやりリリーの姿を探し始めた。
そんな彼を見て、やはり居心地が悪いのだろうかと思いながらキラはカクテルグラスとすぐ隣のクリスマスケーキに吸い寄せられていった。
嬉しいことに、カクテルグラスの中身はキラの大好きな蜂蜜レモンジュースであった。
(学校だし、お酒は入ってないよね)
くんくんと匂いを嗅いでから一口含む。
爽やかな酸味と甘さが口内に広がって、キラは微笑んだ。
慣れない服装にヒールで体がガチガチに緊張していたのが少し解けたような気がした。
セブルスの方へ視線を向ければパーティーを楽しむ様子は全くなく、そこだけお葬式のような悲壮感が漂っているようにも見えた。
(…やっぱり、無理やり連れ出しちゃった、って感じだよね)
あまりに不釣合いな彼の姿にキラは申し訳なくなってくる。
早々にパーティーを離脱した方がいいのかも…そう思いながら、もう一口ジュースを飲んだ、つもりだった。
「ぐふっ…!」
(気管に入った…!!!)
グラスをテーブルに何とか置いて、げほげほと咳き込んむ。
「まぁ、大丈夫?」
不意に目の前にハンカチが差し出されて、キラは涙目ながらにその主を見た。
赤毛にオレンジ色のオフショルダーのドレスを着た女子生徒が心配そうにキラを覗き込んでいた。
自分のものがあるから、と首を振って差し出されたハンカチを断ると彼女は背中を優しく擦ってくれた。
「っはぁ…」
「もう平気?」
「はい…ありがとうございます」
「あら…? あなた、見たことない顔ね。スラグクラブは初めて?」
ようやく落ち着いて彼女に改めて向き直ったキラは、ブラウン管の向こうに居そうな華やかな雰囲気を感じて、どぎまぎしながらコクコクと頷いた。
スリザリン寮にはこんな風に溌剌とした人はいなかったはずだ。
きっと他寮の生徒であろうとキラは思った。