第9章 クリスマス・パーティー
待ち合わせには少し早かったのか、談話室にセブルスの姿はない。
がしかし、ほっとしたのもつかの間。
「――行くぞ」
「わっ!!」
背後から突然声をかけられてキラは文字通り飛び上がった。
「お、驚かせないでください…」
キラは思わず胸に手を当ててバクバクと音を立てる心臓を落ち着かせようと息を吐く。
「通り道でぼーっと突っ立っているからだ」
「そ、そうですけど……あ」
セブルスを振り返ると、キラの動きがピタリと止まった。
いつもと全く雰囲気の異なる彼の姿に視線が釘付けになる。
もちろん黒尽くめなことに変わりはないが、ビシッとしたタキシードに身を包んでいるためまるで別人かのよう。
シャツはさすがに白であったが、襟は黒い縁取りがされていて彼らしいと感じる。
いつもは顔にかかって陰鬱な様子を漂わせる長めの髪は心持ち後ろへ流すように固められているようで、尖った顎のラインがよく見えた。
「…それ、つけてくださってるんですね」
彼の首もとを飾るのは蝶タイではなく、キラが贈ったループタイ。
ほんの少し赤紫の混じる緑の天然石、ゾイサイトを留め具としたものだ。
黒のイメージが強いセブルスであったが、ループタイのカタログを見ていてこれが一番似合う気がしたのだ。
とはいえ当然さほど高価なものではないため、彼が使ってくれるかどうかはわからなかった。
「あぁ…悪くない」
ふ、と口角がほんの少し上がる様を見てキラは顔をほころばせた。
「あの…プレゼント、ありがとうございました」
「大したものじゃない」
「……」
セブルスからもキラはプレゼントを貰っていた。
朝それを開けて見てから、どうして?という思いでいっぱいになっているのを、彼は知っているのだろうか。
無言でじっと見つめてくるキラにセブルスは訝しげな視線を返した。
「なんだ」
「え…あ、その……」
プレゼントの包み紙を開いてみれば、どこかで見たインク壷。
ルビナート社のセピア色。
(どうして、セブルスは私がこれを持っているって知ってるんだろう…)
「――セブルス、あのインクは…」
そこまで言って、見慣れた彼の筆跡とバースデーカードの筆跡がパッと脳裏に浮かぶ。
どこかで、見覚えがあると思ったのだ。