第9章 クリスマス・パーティー
「大丈夫かな…」
鏡の前でキラは何度も自分の身だしなみを確認していた。
祖母が送ってくれたのは、落ち着いたペールグリーン色のドレスだった。
サテンの生地が肌に心地良い。
袖はティアードになっていて、ウエストの切り替え部分には太めの黒レースのリボンがぐるりと一周巻かれている。
膝よりも少し短めの丈ではあるがサテン生地に重ねられた二枚のチュールは膝下あたりまであって、ふわふわとした質感がいわゆる妖精…フェアリーのような出で立ちに見えた。
(アニーがいたら、髪の毛やってもらえたのにな)
クリスマス休暇に入る前に何度かアニーに自分でできる髪のセット方法を教えてもらったのだが、一度も綺麗に仕上げられなかったのだ。
魔法薬学のときの材料を上手く刻む器用さと、髪の毛をセットする器用さは別物らしい。
祖母からはフラワーコサージュのついたカチューシャももらっていたが、それをつけるとやけに子どもっぽく見えてしまって何だか嫌だった。
仕方ないので、キラはあんず油を少し使って柘植櫛で念入りに髪を梳くだけに留めた。
首元につけたのは、今朝届いたばかりのキャリーからのクリスマスプレゼント。
ピンクの小花のネックレスは自己主張しすぎず、ペールグリーンのドレスによく合った。
そしてアニーからのプレゼントは今イギリスで流行っているという色つきリップだった。
蜂蜜を使っているらしく、ほんのり甘い匂いがする。
「なんか美味しそう…」
そう思って唇をペロリと舐めてみると、やはり少し甘かった。
(舐めちゃわないように気をつけなきゃ)
もう一度リップを塗りなおしてから、キラはようやく鏡の前から離れた。
そろそろ行かなくては。
(セブルス、プレゼント喜んでくれたかな…?)
パーティーというものへの期待と興奮とともに、セブルスに贈ったプレゼントが失敗していたらどうしよう、という緊張感でキラの手のひらは汗ばんでいるにも関わらず指先はとても冷えていた。
白のショールを肩に巻きつけ、キラはどきどきしながら談話室へと向かった。