第8章 スラグクラブ
授業も終わり、帰る準備をしていたところに、一旦研究室に引っ込んだスラグホーンが再び教室に顔を出した。
「Ms.ヒスギ。ちょっといいかね?」
「はい…。アニー、キャリーと先に帰っててくれる?」
「えぇ、わかったわ…」
こくりとアニーが頷くのを確認して、キラはスラグホーンの元へ駆け寄った。
「はい、何でしょうか」
「呼び止めたのは他でもない。君にとっておきの話をしようと思ってね」
にっこりと笑ってヒゲを撫で付ける仕草は、スラグホーンの癖であった。
「とっておきの話…ですか?」
「セシリーに聞いたが、クリスマスは帰らないそうだね」
「あ、はい」
日本の冬休みほどイギリスの冬期休暇は長くない。
日本に居た頃は1月8日頃まで休みだったが、こちらは1月2日から学校が始まってしまうため、遠い日本に帰るには少し短すぎる。
そのため、キラはこのままホグワーツで年末年始を過ごすことになっていた。
(紅白見たかったんだけどな…百恵ちゃん…)
ここでは誰にも分かって貰えない悲しみである。
「そこでだ。我がスラグクラブのクリスマスパーティーに君を招待してあげよう」
「スラ…クリスマスパーティー、ですか?」
始めの部分がイマイチ分からなかったが、クリスマスのパーティーと聞いてキラは目を輝かせた。
「家に帰るメンバーも多くて今年は中止にしようと思っていたんだが、君が残ると知ってね。ぜひ来ておくれ」
「はい。ありがとうございます」
「招待状を近いうちに君に届けよう。楽しみにしておいで」
(イギリスのクリスマスパーティーって何だか素敵な気がする!!)
日本ではハロウィンよりは広く知られているクリスマスであるが、本場には敵わないであろう。
スラグクラブというものが何であるか分からないキラは、親友二人のいないクリスマスを一人ぼっちで過ごさなければならなかったこともあり、手放しで喜んだ。
(プレゼント交換とか、するのかな)
アニーとキャリーには日本からキティちゃんの巾着袋を取り寄せることになっていたが、どんな人が来るかわからないパーティーでは何を用意すべきなのかわからなかった。
キラはクリスマスパーティーへの期待に胸を膨らませ、軽い足取りで寮へ戻った。