第8章 スラグクラブ
11月も終わりを迎えようという頃だった。
「できあがった魔法薬はここへ提出するように」
スラグホーンはそう言って教壇を離れ、教室内を巡回し始める。
キラはいつものように祖母と予習したときの書き込みがないか用心深く確認しながら手を動かす。
(ん…?)
用意された薬草を刻もうと手に取ってみれば、違和感。
レシピに書かれていたのは分量1枚、とあるがそのすぐ下の書き込みの"分量注意"が気になって、キラは少し迷って手を挙げた。
「スラグホーン教授。よろしいでしょうか」
キラの声に気づいて、大きなお腹が作業中の生徒にぶつからないように気をつけながらスラグホーンがやってくる。
「どうかしたかね」
「これ、もう1枚いただいても良いでしょうか」
失敗でもしたのだろうか、とスラグホーンはキラの手元を見るがそうではないらしい。
ほっほぅ、と感心した様子でヒゲを撫でてから、彼は「もちろんだとも」と頷いた。
「ありがとうございます」
キラは素早く教壇へ行き、新たに1枚薬草を取り自席へ戻る。
調合のペアを組んでいたアニーが不思議そうな顔でキラを見ていた。
「どうして…?」
「んんと…ちょっと、これじゃ少ない気がして」
そう言ってキラは貰ってきた薬草を半分より小さめに切り分けて、元々支給されていた薬草1枚と一緒にして小さく刻む。
「たぶん、この葉、あんまり発育が良くない…と思うの」
「え、本当?」
「葉っぱは充分大きいと思うんだけど、ね。だから多めに入れた方がいいかなって……失敗したらごめんね」
キラは自信なさげに言っていたが、そうして作った魔法薬はやっぱりスラグホーンの目に止まった。
「Ms.ヒスギ、Ms.カドワース。素晴らしい出来栄えだ」
Excellent!!とスラグホーンは嬉しそうに手を叩いて褒めてくれた。
「キラのおかげで私も褒められちゃった…ありがとう」
アニーのその言葉にキラはほっと胸を撫で下ろした。
「でも、どうしてわかったの? 量が足りないかも、って…」
「んん…何というか…葉っぱの色と艶?が足りないというか…元気が無いというか…」
なんとなく、としか説明ができなくてキラは苦笑いを浮かべるしかなかった。