第7章 あえかな君
再三変身術の呪文を教えてもらっていたときに指摘されていたというのに、情けない。
キラはセブルスによって元の大きさに戻ったバスケットを手に取った。
じっと観察するようにしばらく見つめてから、足元に置きなおす。
「もう一回、いいですか?」
「あぁ」
キラはバスケットの周りをぐるりと一周してから杖を構えた。
「――エンゴージォ」
バスケットはむくむくと肥大し、先ほどキラが一周した円に収まる程度でピタリと動かなくなった。
(できた…!)
喜色満面の様子のキラに、セブルスはふむ、と頷いて腕組みを解いた。
そしておもむろにバスケットの蓋を開けて言った。
「中身が伴っていないが…まぁ二度目にしてはいいだろう」
「え?」
セブルスと同じように中を覗き込んでみれば、底の方に紙ナフキンに包まれた食べかけのパイが入っていた。
「セブルス…この魔法って、食べ物とかも大きくできるんですか?」
「…できるかと言えばできるが、できないとも言えるな」
「どういうことですか?」
「食べ物は大きくできるが中身がすかすかになる。飲み物は大きくはならない。大きくする、というよりは量を増やすということになるからだ」
「では、量を増やすという魔法はあるのですか?」
「…俺の知る限りではないな。分裂させる、コピーを作る、などはあるが…液体には使えない。お前も分かっていると思うが、魔法だからと言って何でもできるわけではない」
「はい」
その後、セブルスが元の大きさに戻し、またキラが肥大魔法をかけ、またセブルスが元に戻し…と魔法の練習は一時間ほど続いた。
「――今日はこの辺でいいだろう」
「はい、ありがとうございます」
ついにバスケットだけでなく中身の紙ナフキンが大きくなったところで練習をやめる。
キラの集中力も切れかけていたようで、ふぅ、と息をついた。