第7章 あえかな君
セブルスは杖を振り、空中に文字を浮かび上がらせた。
それは呪文のスペルであった。
肥大呪文は"エンゴージォ"。
その反対の縮小呪文は"レデュシオ"。
キラは素早くメモを取り、小さな声でその発音を確かめる。
「ェンゴージオ…エンゴージオ……」
「違う。エンゴージォ、だ」
「エンゴージォ、ですか?」
「そうだ。もう一度言ってみろ」
「…エンゴージォ」
セブルスがじっとキラの口元を見るのでなんだか恥ずかしくなってくる。
それでもしっかりと教えてくれようとしている彼に応えようと、キラは正しく発音すべく唇を動かした。
そうして幾度か発音の練習をした後、セブルスに言われて杖を取り出した。
キラの杖は柊にユニコーンのたてがみを用いており、長さは20センチとかなり短めである。
持ち手部分の滑り止めとして螺旋状に彫られているのはスリザリンの象徴、蛇の姿であった。
「そうだな…手始めにこれに魔法をかけてみろ」
セブルスは先ほどパイを入れて持ってきたバスケットを指差した。
「はい」
すぅ、と息を一つ吸い込んで、杖を構える。
「エンゴージォ」
途端、バスケットがむくむくと大きくなりだした。
「やった!」
一発成功したと喜んだのもつかの間。
「あ、あれ?!」
そのバスケットは大きくなり続ける。
「おい…どれだけ大きくするつもりだ」
「いや、あの…もう予定は超えてるんですけど…」
自分の想像では二倍から三倍くらいの大きさになるはずだった。
しかしキラの背丈よりもバスケットが大きくなろうとしているので、セブルスはため息をついて杖を振る。
途端、バスケットはブルッと震えて元の大きさに戻った。
杖を仕舞い、セブルスは腕組みをしてキラを振り返る。
「初歩的なミスだな。呪文を唱えるだけでイメージが固まっていない。どれくらいの大きさにしたいのか、はっきりと考えていなかっただろう。とりあえず大きく、じゃダメだ。これくらい、ではなくこの大きさで、と明確に頭に思い浮かべろ」
なんとなく二~三倍、と思っていたことがバレていたらしい。
キラは恥ずかしくなって下唇を噛んで俯いた。