第7章 あえかな君
「来週は縮小魔法を教える。自主練習はそれが終わってからだ」
「えっ」
「当たり前だろう。大きくした後どうやって一人で元に戻すつもりだ」
自主練習する気満々だったようで、キラは残念そうに眉を下げたがすぐに笑みを浮かべる。
「では来週もよろしくお願いします!」
「あぁ」
頷くセブルスの、ふっ…とわずかに上がった口角にキラは目を見開いた。
(い、今ちょっと笑った…?!)
彼のそんな顔を、自分は今まで見たことがあっただろうか。
仏頂面か怒った顔か、苦い顔くらいしか見せたことのないセブルスだったので、笑うことなんてないと思っていた。
しかし実のところ、彼はたまに笑っていたのだが平常時とあまり変化がないため、そうとは気づけないだけで。
キラはそんなセブルスの僅かな表情の違いを初めて感じたのであった。
「どうした」
「あ、いえ、なんでもないです!」
途端に怪訝そうな表情に変わってしまい、キラは惜しい気持ちになった。
「…変な奴だな」
ぽつりとこぼれた言葉はキラの耳には届かなかった。
「それじゃ…私、そろそろ戻ろうかと思います」
「あぁ。俺はまだしばらく残る」
魔法の練習のために中断した読書を再開するようで、セブルスはカウチに投げ出されていた書物を手に取った。
「今日はありがとうございました」
ぺこりと頭を下げてキラは温室を後にする。
途中、ふと振り返ればすでにセブルスは読書に没頭していた。
キラが温室を去った後。
セブルスが本からふと視線を上げれば、先ほどまで練習に使っていたバスケットが視界に入った。
以前に比べれば、キラの魔法の腕は格段に上がっていた。
他の魔法族の一年生にも引けは取らないだろう。
セブルスはそれが誇らしく思えた。
同級生がたまに妹や弟を自慢しているのを見聞きしては鬱陶しいと思っていたが、なるほど、と自慢したくなる気持ちがわかったような気がする。
来週の縮小呪文の練習が楽しみである。
セブルスは冷えてしまった紅茶を杖を一振りして温めなおした。