第7章 あえかな君
「ありがとうございます。…もしかして…これまで食べてたスコーンも屋敷しもべ妖精が?」
セブルスの淹れた紅茶と糖蜜パイを受け取りながらキラは言った。
「あぁ…毎回あそこから持ってきている」
「そうだったんですね」
「でなければ俺は口をつけない」
「…確かに」
薬を盛られたらたまったもんじゃない。
スコーンを食べたがるのは主にダモクレスなので、薬が入っている可能性はほとんどないはずだが、疑っておく方が良いだろう。
カップの中のアプリコットティーをしばし見つめてから、こくりと一口嚥下する。
(…美味しい…)
祖母の淹れてくれる紅茶も美味しかったが、セブルスの淹れた紅茶は一段と香りが豊かな気がした。
セブルスが言葉を発したのは、お互いにパイを食べきってしばらく経った頃だった。
「最近、授業はちゃんと着いていけているのか?」
読書の途中でふと思い出したようにそう言うので、キラもまた読んでいた本から顔を上げた。
「おかげさまで、変身術の授業も呪文学もバッチリです」
「そうか」
うむ、と満足したように頷いて、セブルスは本に視線を戻そうとするのを止めるようにキラが声をかける。
「あの」
「なんだ?」
「セブルス…肥大呪文と縮小呪文を教えてもらえませんか?」
お茶会の準備にいつも使う二つの呪文はキラにとってとても魅力的だった。
荷物を小さくして持ち歩けるというのはとても便利だし、図書室の本は重いものが多いので小さくできれば軽量化にもなるのだ。
今授業で習っている浮遊呪文よりよほど実用的であろう。
授業で教えてもらうまで待つなんて考えられなかった。
セブルスは少し考える素振りをしたが、やがて「いいだろう」と承諾した。
「ホントですか! ありがとうございます」
やった!と満面の笑みでキラはセブルスに頭を下げた。