第7章 あえかな君
しばらくすると、屋敷しもべ妖精がパイを持ってきた。
「お待たせしました」
「あぁ」
セブルスはそれを受け取り、歩き出そうとするが身動きが取れない。
「おい…そろそろ離れろ」
「ご、ごめんなさい…」
屋敷しもべ妖精を見ないように見ないように、俯きではなく仰向け気味に顔を逸らしてキラは厨房を出た。
(あああ…もう二度と行きたくない…!)
ご飯を食いっぱぐれないように気をつけなくては。
キラはそう心に決めた。
それにしても、あんな化け物に家事をやらせるなんて、魔法族の気がしれない。
(こっちの人は餓鬼なんて知らないんだろうけど…)
可愛らしい妖精を想像していたので、現実との差が酷すぎた。
もしキャリーやアニーの家にお呼ばれしたとしても、絶対に顔を合わせないように計らってもらわねばなるまい。
(っていうか…あの屋敷しもべ妖精たちがご飯作ってるんだよね……)
元々英国の食事はあまり美味しくないのだが、今後食べられるだろうか。
頭にあの姿が過ぎりそうだ。
(ベッドメイクとかもしてくれてるのかな…もしかして…。あ、ちょっと待って、洗濯物もか…)
うぅ、うぅ、とうめくキラをセブルスは怪訝そうに振り返った。
「どうかしたのか」
「え…あ、いぇ…あれ?」
「なんだ?」
「あ、いや、なんでもないです…」
考え事をしながらセブルスの後をついて歩いていたキラの目の前には温室が待ち構えていた。
来るつもりじゃなかったのに、ただただセブルスの背中を追いかけてここまで来てしまったようだ。
(ま、いっか…)
「ダモクレス、もう来ているでしょうか」
「いや。アイツは今日は部屋に缶詰めだ」
「缶詰…?」
「論文の最終確認をしている」
「あ、なるほど…」
ダモクレスがいないと知って、キラはほっと胸を撫でおろした。
そのままセブルスの後について温室の奥へ歩いていく。
そして花壇の前にミニチュアの家具を並べて、セブルスは呪文を唱えた。
「エンゴージォ」
縮められていたカウチとテーブルがあっという間に元の大きさに戻る。
そうしていつものようにお茶会が始まった。