第7章 あえかな君
「…怖いのか?」
セブルスの問いかけにキラは大きく何度も頷く。
その様子は普段落ち着いたキラとかけ離れていて、ハロウィンの夜の不安げな姿よりもはるかに心もとないように見えた。
「なんでございましょう?」
屋敷しもべ妖精が話しかけてくると、キラは体をビクつかせてセブルスにしがみついた。
(そんなに怖いものか…?)
不思議に思うが、あまりにぎゅうぎゅうしがみついてくるので可哀想になってくる。
仕方ない、とセブルスは嫌がるキラを一旦ローブから引き剥がす。
「セブルス…!」
うるり、と瞳が濡れそうになりキラはぎゅっと目を瞑った。
すると、ぱさ、と音がしたかと思えばセブルスのローブの中に巻き込まれ、そのまま左腕で抱えられた。
「しばらく我慢しろ」
キラは密着したのを良いことにセブルスの腰に両手を巻きつけてしっかりと抱きついた。
そうすると恐ろしい形相の屋敷しもべ妖精の声が遠くなったような気がして少し心が落ち着いた。
「コテージパイと糖蜜パイを一つずつくれ」
「かしこまりました」
ペタペタという足音が遠ざかるので、キラはほっと息をついた。
屋敷しもべ妖精の声がいくつも聞こえる。
一体何人の妖精が働いているのか。
今までその姿を見たことがなかったのは奇跡だったのかもしれない。
「確かに醜い姿だが…それほど怖がることもないと思うが」
ローブの下で必死で自分にしがみつくキラに、セブルスは苦い顔をする。
「だ、だって…あんな悪魔みたいなの…怖いに決まってるじゃないですか!」
"餓鬼"という言葉をそのまま伝えるのは難しくて"悪魔"と表現してみるが、きっとセブルスには伝わらない。
「地獄に住む鬼の一種類で…見た目がそっくりなんです…! 取り憑かれそう…」
ぎょろぎょろとした目が忘れられない。
夢に出てきそうだ。
「見たこともないのに?」
「日本には!地獄絵図という絵本があって!生前に悪い行いをした人間は漏れなく死後の世界で罰を受ける、そういう内容なんです!!」
「たかが絵本だ」
「そうですけど…!」
地獄絵図の恐ろしさを分かってもらえないことにキラは地団駄を踏んだ。