第7章 あえかな君
「ここは厨房だ」
「厨房…台所ですか」
そんなところに何の用があるのだろう。
キラは背の高いセブルスを見上げた。
聞けば、朝食を食べ損ねたと言う。
その場合、多くの生徒は厨房へやってきて残り物を貰いに来るらしい。
「厨房って…給食のおばちゃんがいるんですか?」
「なんだそれは」
「えっと、学校でお昼ご飯を作ってくれる人です」
「…まぁそんなところだな。ホグワーツでの食事は全てここで作られている。屋敷しもべ妖精という名前を聞いたことは?」
「あります!この中にいるんですか?」
思いがけず屋敷しもべ妖精を目撃できそうな事態となりキラは胸を期待に膨らませる。
そんなキラの様子にセブルスは訝しげな顔をする。
ワクワクどきどきするようなものなど何もないのだが、キラキラした目で見つめられると何も言えなかった。
セブルスは小さくため息をついたが、そのままノックもせずに扉を開いた。
途端にキーキーと甲高い耳障りな音がしてキラは耳を覆う。
不快な音だ。
一体何の音なのだろうと、セブルスに続いて扉の中、厨房へと足を進める。
少し離れたところで小柄で茶褐色の体躯をした異形の何かがペタペタと裸足で歩いていた。
(な、何あれ…)
キラは得体の知れない何かに恐れを抱き、無意識の内にセブルスのローブを握り締めた。
自分の握りこぶしほどにも大きな目、そして大きく尖った耳と鼻。
キラの半分ほどしかない背丈に骨と皮ばかりでガリガリの長い手足と細長い指が、幼い頃に見た地獄絵図の餓鬼にそっくりであった。
(妖精なんかじゃない…化け物だよ…!)
フェアリーを想像してはいけないとキャリーたちが言っていたのが今ならよくわかる。
おどろおどろしいという言葉がぴったりなほど不気味である。
セブルスとキラに気づいたようで、手前にいた屋敷しもべ妖精がこちらに近づいてきた。
キラは恐ろしくなってセブルスの後ろに隠れた。
「おい…キラ?」
「おおお、お気になさらず…」
震えたような声に振り向いてみれば、キラはローブがしわになるほどぎゅっときつく握り締めていることに気づいた。