第6章 ハロウィンの夜に
冷えた体を震わせてキラはセブルスの腕にしがみつき、不安そうに彼を見上げてくる。
セブルスはそんな彼女を抱き寄せ、背中や腕をさすってやった。
するとキラは暖を求めてセブルスの胸に頬を寄せる。
アプリコットがかすかに香り、セブルスは無意識にキラの髪にその高い鉤鼻をうずめた。
胸いっぱいにその香りを吸い込めば、なんとも言いがたい穏やかな気持ちになった。
「もうそろそろ元に戻るはずだ」
キラを胸に抱いたまま、セブルスは落ち着いた声でそう言った。
そこでやっとキラはセブルスに抱きしめられているという今の状況に気づいた。
カッと自分の頬が赤くなるのがわかる。
「あ、あの…」
寒さが遠のいてきたこともあり、キラはセブルスの胸からそっと体を起こした。
兄のよう、とは言ったが父親のような安心感をもたらす彼の腕の中は心地よく、離れがたいと思ってしまう。
「大丈夫か?」
「はい…ありがとうございます」
少々気だるい感じはするが、自らを見てみればセブルスの言った通り体が元に戻っていた。
「良かった…」
体をあちこち触って異常がないか自分の体を確かめていると、セブルスの手が頬に触れた。
「――ふむ。ヒゲもなくなったな」
そろ、と撫でるような触れ方にくすぐったくなり、キラはきゅっと首をすくめた。
「…ダモクレスには気をつけろ。アイツは誰にでも自作の薬を試したがるからな」
「肝に銘じておきます…。…セブルスも被害にあったことが?」
「…今年はまだない」
「今年は? ということは、去年とかは――」
その後、まったく戻ってくる気配のないキラを探してキャリーとアニーが談話室にやってくるまでキラはダモクレスの人騒がせな、セブルスにとってははた迷惑な話を聞いていた。