第1章 9と3/4番線
ホラス・スラグホーンは祖母セシリーの同級生である。
確か数ヶ月に一度セシリーのを訪れていたように思う。
「僕はスリザリンで、スラグホーン教授はスリザリンの寮監なんだ。それで、ブルーム家のお孫さんが今年入学することを聞いた」
あの人は知り合いが多いことを自慢したがるから、とグラエムは困ったように笑った。
確かに、そういう雰囲気はあった気がする。
そしてどうやら、祖母の家、つまりブルーム家というのはそれなりに名が知れているようでキラのことを"ブルーム家の孫娘"と呼ぶことも多かった。
しかし、キラはあまりその辺りを良く知らないし祖母のファミリーネームを使ったこともないので違和感しかない。
「私、キラ・ミズキです。ブルームというのは祖母の家のことで、私はずっと日本で育ったので…その…家柄?とかは、よくわからないんです」
「まぁ、そうなの? ブルーム家だけじゃなくて、セシリーさん自身も有名なのよ」
それまで黙っていた金髪の女子生徒が小首をかしげて言った。
「紹介が遅れたわね、私、イザドラ・ヘンリンソンよ」
「私の姉なの」
キャリーがそう付け加える。
「とっても似てますね」
キラの言葉に、グラエムがでしょう?と何故か嬉しげである。
そこでふっと思い出したようにグラエムは立ち上がった。
「そういえば、僕に用事があった?」
「あら、すっかり忘れてたわ。監督生の打ち合わせがあるって」
「じゃあもう行かなくちゃ。それじゃ、また」
イザドラとグラエムはそのままコンパートメントを出て行ってしまった。
「……」
それまでぎゅうぎゅうだったコンパートメントが一気に広くなったような気がして、キラはキャリーと、その前に座っている女の子を交互に見る。
「えと、あなたが、Mr.カドワースの妹さん?」
キラがそうたずねると、その女の子はさっと顔を赤らめ、大きく二度頷いた。
「アニタ、私はアニーって呼んでるわ。とってもシャイなのよ」
キャリーが助け舟を出してくれた。
自分よりよほど緊張しているアニーを見て、キラは少し心が落ち着いた。
「私、キラ。よろしくね」
キャリーはにっこり笑顔を返してくれ、アニーはまた大きく頷いてくれた。