第6章 ハロウィンの夜に
「…………」
きょろきょろと辺りを見回して、誰もいないことを確認する。
コンパクトを取り出して、開く。
そして。
『て…っ、テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、猫にな~れ!』
意を決して言ってみた。
顔だけでなく体全体に熱が集中している。
それほど、やっぱり、恥ずかしかった。
『――はぁ、何やってるんだろ』
日本語で自分にツッコミを入れずにはいられないほど。
馬鹿馬鹿しいな、と思いながら手洗い場の鏡を見た。
『……ええええっ?! 何これ?! 嘘でしょ?!』
キラのその体は、猫になった…のではなく。
猫ヒゲが生えただけでなく、なぜか体が成長していた。
髪の毛は伸びて、腰辺りまである。
背も少し伸びたようだ。
靴はきつさを感じなかったが、今来ているワンピースの丈が膝上になっている。
そして、何と言っても胸。
思わず自分で鷲づかみにする。
こんなに胸は大きくなかったはずだ。
しかし、ワンピースの胸元は余裕があったのだが、今ではパツパツで苦しいくらいである。
鏡の中の自分は、まるで…まるで、大人になったかのようであった。
『ちょ、ちょっと待って、本当に? これのせい?!』
キラは祖母からもらったコンパクトを見る。
『そ、そうだ、元に戻る魔法があったはず…』
必死でアッコちゃんを思い出す。
『確か…ラミパスラミパスルルルルル~!』
コンパクトに向かって叫んで、鏡を見る。
『違うの…?! 呪文間違ってるの?!』
キラはプチパニックを起こしていた。
呪文は合っていたが、そもそもコンパクトミラーで変身したわけではないことにキラはしばらく気づけなかった。
「落ち着け…落ち着け…」
気づけば、日本語で喋りまくっていた。
冷静になろうと、英語で自分に言い聞かせる。
「…ヒゲは、生えてるのよね」
セブルスが不審そうに薬を見ていたことが脳裏に蘇る。
(もしかして、そういうこと、ですか…?)
その通りである。
がしかし、そういうことだとして、これから一体どうすればいいのか。
長く帰ってこなければキャリーたちが心配するに違いない。
しかし、正直なところ大人の状態でこの格好というのもずいぶん恥ずかしく。
キラはキャリーたちの元へ行く勇気が出ない。