第6章 ハロウィンの夜に
「これは…?」
見慣れないものに、キラは困惑した。
「ガラスペンだわ…しかもルビナートの。あら、インクも入ってるわよ」
ガラスペン?
ルビナート?
キラの頭には?がいっぱい浮かぶ。
「インクの色は…セピアだわ! なんて素敵なのかしら!」
一人興奮するキャリー。
「キャリー…言ってることが全然わからないんだけど…」
キラが遠い目をしているのに気づいたキャリーは、「知らないなんてありえないわ!」とばかりにその贈り物の良さを語りだした。
ルビナートというのはイタリアの筆記用具を製造するメーカーで、創業はまだ20年程度らしいが、高品質であることから人気なのだそう。
それがこのヴェネツィアンガラスのペンで、贈り物にも好まれるとキャリーは言う。
インクの色はブルー、ブラック、セピアが主流でキャリーはその中でもセピアが一番シックで上品だと思っているらしい。
「こんな素敵な贈り物、誰からなの?」
「それが…名前、書いてなくて」
「まぁ…名もなき方からの贈り物だなんて、ロマンチックだわ!」
「わたしもそう思う…」
見れば、アニーもキャリーと同じようにうっとりしている。
キラはガラスペンをそっと手に取った。
ひやりとした感触だが、手に馴染む。
思ったほどの重量感もない。
(ホントに…誰だろう?)
箱をひっくり返すと、ヒラリと何かが舞ってテーブルの上を滑った。
アニーの目の前で止まったそれは、カードのようだった。
それを見たアニーが目を丸くしてキラを見た。
「キラ…! 今日誕生日なの…?!」
「え、何ですって? いつ?今日?!」
どうやらそのカードはバースデーカードだったらしい。
「ちょっと!どうして言ってくれなかったの?!」
「何も用意してないよ…」
「や、なんか自分から言うのもちょっと…厚かましいかと思って…」
二人に詰め寄られて、キラはタジタジとなる。
「そんなわけないじゃない! 三十路を超えたわけじゃないのよ? 私たちは誕生日を大いに楽しむべき年頃よ!」
「う、ご、ごめん…聞かれなかったし、いいかなって…」
「確かに聞かなかったけど…そういう問題じゃないのよ!」
キャリーがあまりにぷんぷん怒るので、キラは眉をハの字にするしかなかった。