第6章 ハロウィンの夜に
眼鏡の奥の目をキラキラ輝かせたダモクレスがキラの元に来たのは、ハロウィンパーティー前日のことだった。
「キラ! はい、これどーぞー」
渡されたのは、猫耳と、肉球つきの猫手袋、そしてビロード生地の黒のパフスリーブワンピースだった。
ワンピースのお尻あたりにはご丁寧にしっぽまでついていた。
(やっぱり猫か…!)
なんとなく想像はついていたけれど。
「あと、これは飲むと猫みたいなヒゲがほっぺに生えるから、絶対飲んでね!」
小さな小瓶も一緒に渡され、キラは素直に受け取った。
「あ、ありがとうございます…」
(まぁ…いっか。これでもわりと地味な方みたいだし)
アニーは不思議の国のアリスのアリスを、キャリーは同じ不思議の国のアリスから、ハートの女王をするのだ。
黒猫はありがちだし、きっと目立たないだろう。
そう思っていたのが、間違いであった。
キラはまだ知らなかった。
ダモクレスが手近に居る人を実験台にして自らが作った薬の効き目を確かめる、というマッドな嗜好の持ち主だということを。
ハロウィン当日。
キラにとっては13歳の誕生日である。
朝、ふくろう便で三つ、キラのもとに荷物が届いた。
「ありがとう」
梟を撫でて餌をやる。
「あら、何かしら?」
キラに初めて届く大きな荷物に、キャリーが興味を示す。
アニーもほんの少し身を乗り出していた。
キラは誕生日プレゼントだ、とは言い出しにくく、「何かなぁ?」とだけ言って、依頼人の名前を確認する。
一つは、祖母から。
もう一つは、今どこで仕事をしているかわからないけれど、世界のどこかに居る両親から。
「これは…誰だろ?」
記名がなかった。
先の二つは誕生日プレゼントであることは明確なので、後で部屋でゆっくり開けるつもりであった。
しかし、最後の一つは。
ネイビー色の箱に、綺麗な緑色のリボンがかかっている。
キラはそれをしゅるりと解いて、箱を開けた。