第6章 ハロウィンの夜に
セブルスは逡巡の後、杖を振って三人のティーカップに紅茶を淹れなおす。
そしてカップの香りを嗅ぎ、やはりな、と一人頷いた。
「アプリコットティーだねー」
「わ、本当に同じ匂いがしますね」
二人もカップを手に取り、その香りを楽しんだ。
「ねぇキラ」
「はい?」
「やっぱり仮装しなよ。仮装してハロウィンを楽しめるのは子どもの内だけだよー」
四年生くらいになると皆やらなくなるからさ、と言うダモクレスに、キラは困ったような顔をした。
「でも、衣装がないので…」
「大丈夫! 俺に任せて!!」
ダモクレスは満面の笑みで胸を張る。
「で、でも…」
「そうと決まったら、早速準備しなくちゃ!」
「え、えぇ?」
「寮に戻るよ!じゃあねー!」
「あ、ちょっと、待ってくださいっ……」
キラの静止の声も空しく、ダモクレスは温室を去っていった。
「ああなったら止められん。諦めろ」
長い付き合いのセブルスに言われてしまっては、もうどうにもできない。
キラはがっくりため息をつく。
ハロウィンの日、10月31日は自分の誕生日だった。
今年はまだ誰にも誕生日がいつか聞かれていないので、誰にも祝って貰えないということはわかっていた。
だからせめて、自分だけは誕生日らしく過ごそうと思っていたのだが。
「誕生日、なんだけどなぁ…」
小さく呟いたその言葉は、本を読む振りをしてキラの様子を伺っていたセブルスの耳にしっかりと届いていた。