第6章 ハロウィンの夜に
「全員じゃないんですね」
「やりたいヤツがやればいい」
セブルスは興味無いとばかりだ。
「キラは? 仮装しないの?」
「そのつもりです。皆みたいに家から衣装を送ってもらうっていうのもできないですし」
「そっかー。残念ー。キラ、黒猫とか似合いそうなのに」
「え?」
「キラの髪、綺麗だし、その緑の目も可愛いと思うんだよねー。猫っぽいじゃん!」
ダモクレスはそう言ってキラの長い髪に手を伸ばす。
「うん、さらさらしてる」
つるりとした絹のような黒髪は、陽の光が当たると綺麗な天使の輪ができる。
「天使でもいいかもねー」
ふふふ、と笑ってダモクレスは掬い上げた一房の髪に口付ける。
「ダモクレス…っ」
恥ずかしさにキラの顔が真っ赤になる。
誰にもこんなことされたことがなくて、キラは驚きを隠せない。
そんなキラの様子をセブルスはじっと見つめる。
(確かに猫に…見えなくもない、か)
そう思ったら、自然と手が伸びていた。
自分と同じ黒髪なのに、全然違う。
つややかでさらりとした真っ直ぐな髪。
ふわ、とどこかで嗅いだような香りがして、セブルスは鼻を近づけた。
「せ、せぶるす?」
キラの裏返った声が聞こえて、はっと我に返る。
セブルスは慌てて身を引いた。
「あー…悪かった」
「い、いえ…」
顔が赤いのが自分でも分かる。
キラは両手で頬を押さえた。
(び、びっくりした…)
「…何の匂いだ?」
聞かれて、キラはきょとんとする。
「あ、セブルスも気づいた? いつものポプリと、ちょっと違う気がするんだよね。なんか、甘い匂いー」
キラは小首をかしげていたが、あっ、と小さな声を漏らした。
「あんず油だと思います。髪のお手入れに使ったので…」
「アプリコット?」
「そうです」
「…そうか」
合点がいった。
嗅いだことがある、落ち着く香りだと思ったのは、セブルス自身が気に入ってよく飲むアプリコットティーと同じだったからだ。