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【HP】月下美人

第1章 9と3/4番線


 貨物列車では荷物を預ける列が出来ているようだった。
 しかし、人が多くてどこが最後尾なのかよくわからない。
 そこのあなた、とセシリーは一人の男子生徒に声をかけた。
「ここが最後尾かしら?」
 振り向いた生徒は、訝しげにセシリーに視線をやるが、すぐにキラに気づいたようで、「ええ、そうです」と頷いた。
 全身黒ずくめのその生徒は青白く、血色が悪い。
 べたっとした印象の髪の毛は顎のラインを過ぎるほど長く、鉤鼻が特徴的だった。
(なんか怖い…)
 鳥かごを持つキラの腕に思わず力が入る。
「ありがとう、助かったわ。なんせ半世紀も前のことだもの、全然覚えてなくて」
 ふふふ、とセシリーは男子生徒に笑いかけたが、彼はさっと会釈だけして前を向いてしまった。





 梟の翡翠も一緒に預けてしまい、手元に残ったのは着替えの制服と小さな巾着に入れたハンカチと少しのお金だけだった。
 荷物がなくなるとなんだか落ち着かなくなるのはなぜだろうか。
 キラは辺りをきょろきょろと見回し、他の生徒を観察して気を紛らわせていたが徐々に汽車に乗り込む生徒が増えてきたことで、出発の時間が間もないことに気づかされた。
「そろそろね」
「うん。…レイブンクローに入れなかったらどうしよう」
 できれば、祖母と同じ寮が良いとキラは思っていた。
「そんなに不安な顔しないで。にっこり笑って」
 セシリーはそう言ってキラを抱きしめた。
「どこの寮になってもきっと楽しいと思うわ。でも…そうね、グリフィンドールは避けたいところね」
 だってあそこの寮は騒がしくて苦手なのよ、と顔をしかめたセシリーにキラはやっと少し微笑んだ。


「手紙、待ってるわ」
「うん、ありがとう。行ってきます」
 最後にもう一度ハグをして、キラは汽車に乗り込んだ。
 シューッと音とともに、大量の蒸気が上がっていく。
 ゆっくりとホグワーツ特急が動き出す。

 キングズクロス駅から出て行くその後ろ姿をセシリーはずっと見つめていた。
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