第1章 9と3/4番線
祖母がにっこりと満面の笑みで差し出したそれは、鳥かご。
「ホグワーツにはポストはないの。手紙は梟に運んでもらうのよ。この子が飛んでくるのを待ってるわ」
「日本まで飛んでいけるの?」
「もちろん。ちょっと時間はかかるけど」
鳥かごの中で、ホゥ、と梟が鳴いた。
「可愛い…」
茶褐色の体に白の斑の入った梟だった。
くちばしの黄色と脚の赤茶けた色が少し浮いて見える。
「あれ?」
よく見ると、片脚にリングを嵌めていた。
そのリングには綺麗な緑色の石が埋め込まれていた。
「綺麗でしょう?最近は梟にもこうやって足環をつけるのが流行りなんですって」
他の色の足環もあったけど、一目見てこれに決めたの、どうかしら?と祖母はキラの反応を伺った。
「うん、とっても綺麗。おばあちゃんと私とこの子、お揃いね」
キラはふわりと笑って、梟を撫でた。
「名前は…翡翠、にするわ。よろしくね」
その梟は大きな黒目をゆっくりと二度ほど瞬きして以降、眠るつもりなのか目を閉じたままになってしまった。
キラは鳥かごを揺らさぬよう、祖母からそっと受け取って抱え込んだ。
二人はカートいっぱいの荷物を汽車に載せようと貨物車の方へと歩き始めた。
ホグワーツ魔術学校へは、ここイギリスのキングズクロス駅の9と3/4番線から、全生徒が一度に汽車に乗り込んで向かうという。
キラの祖母、セシリー・ブルームはホグワーツの出身であり、孫のキラは魔法使いの資質を持って生まれた。
ホグワーツでは毎年9月1日の時点で11歳の者に入学許可の手紙が送られたが、キラは小学校を卒業してから渡英することにしたため、現在すでに12歳、しかも誕生日は2ヵ月後に迫っていたのでもうそろそろ13歳になろうとしていた。
一緒に入学する生徒は11歳、もしくは12歳で年下ということだったが、キラにとって外国人は子どもでも迫力があるように感じられたのだった。