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【HP】月下美人

第4章 近づく距離


「――飛行術はどうなっている?」

 そしておもむろに口を開いたかと思うと、全く関係のないようなことでキラはきょとんとする。
「箒には乗れるのか?」
「え、あ、はい…まだスピードは出せませんが」
 思い通りのところへ移動できるようにはなっていたが、それと何の関係があるのだろうか。
 キラたちは首をかしげた。
「一番初めの授業からか?」
 セブルスはなおも飛行術の授業について尋ねてくる。
「はい。箒を上げるのはそんなに苦労しなかったです」
「そうか」
 それならば…とセブルスは自分の杖を取り出した。
「見ていろ」
 言うが早いか、セブルスは無言で杖を振った。
 するとどうだろう、羽ペンがふわりと浮き上がったではないか。
 一体何が起こったのか、とキラが目を見張る。
「無言呪文だわ…」
 アニーが嘆息する。
「無言呪文?」
 聞いたことのない言葉にキラは困惑する。
 すると、キャリーがすかさず「口に出さないで心の中で呪文を唱えるってことよ。これが出来る人はとても優秀な魔法使いだと言えるの」と教えてくれた。

「やってみろ」
「…え、えぇ?」
 セブルスの淡々とした声に驚く。
(今、キャリーが優秀な魔法使いしかできないって言ってなかった?!)
「それから、杖を単に振ればいいというわけではない。魔法を当てたい対象物にちゃんと狙いを定めて、一点で止めろ。杖の焦点がブレなければ成功するはすだ」
 セブルスの視線が真っ直ぐにキラを見ている。
(…私ができる、って思ってるのかな…)
 キラは意を決して杖を構えた。
(心の中で。杖の焦点を羽ペンの…中心に当てる)
 本当にうまくいくのだろうか。
 そう思いながら、心の中で呪文を唱えた。

「……ダメね…」
 キャリーが残念そうに言う隣で、セブルスは険しい顔をしていた。
(何あの顔!怖すぎる!!)
 元々険しい顔をしていることが多いようだが、眉間の皺が深い気がする。

「…自分には魔法が使えないと思っているのか?」
「え…」
「それとも、杖を振って、呪文を唱えるのが恥ずかしいのか?」
 セブルスの言葉に、はっとする。
「そ、んなことは…」
 否定の言葉を口にしたものの、キラは焦りのようなものを感じた。

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