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【HP】月下美人

第4章 近づく距離


 もしかしたら、そうなのかもしれない。
 魔法使いなんて、アニメやドラマの中の話だった。
 でも今、キラはあのサリーちゃんと同じなのだ。
 小学校に入る前、よく真似をしていたのを覚えている。
 サリーちゃんはステッキを持ってなかったけれど、コメットさんはバトンを振っていた。
 小さい頃はそんな風に魔法を夢見ていたけれど。
 もうこの年になって、そんな真似をして遊ぶこともない。
 杖を振るというその行為が、とても幼稚なことのようで――。


 黙りこくってしまったキラに、セブルスは小さくため息をついた。
「キラ」
「……は、い」
「家族で魔法を使う者がいなかったのか?」
「…祖母だけです。父も母も…使っているところは見たことがなくて…使えるのかどうかも知りません。ここ数年は、離れて暮らしてますから」
 もしかしたら、幼い頃に見ているかも知れない。
 けれど、キラの思い出せる記憶の中にはなかったし、祖母でさえ、めったに魔法を使わなかった。

「…マグルには、たまにあることだ」
「え…?」
「作り話の真似をすることに抵抗があるんだろう」
「……そう、かもしれません」
 魔法族を真っ向から否定するようで、キラはそうだと言い切れなかった。
 しかし、セブルスには分かっていた。
 魔法なんてあるわけがない、あれはただの作り話だと思って育ったマグルは、初めから魔法をちゃんと使える者は少ないのだ。
 自分に魔法が使えるなんて、そんなことが?と自らを疑うことが、その能力に蓋をしてしまう。
 それに加えて、キラの場合は呪文の発音が不安定だった。
 無言呪文をさせたのはそのためだ。
 気持ちの強さが重要になるので、呪文それ自体の正確性はそこまで求められない。
 当然、有言より無言の方が注意が逸れやすく、難しいのであるが。


「スリザリンに入った時点で、お前は優秀な魔法使いになれる素質があるということだ。杖を振っても何もできないということこそが恥ずかしいと思え。浮かんでくれ、と願うのではない。浮け、と命令するように念じろ」

 確固たる意志で、呪文を唱えること。
 それが魔法を使う上で重要なことであった。
 キラは神妙な面持ちでうなづいて、もう一度杖を構えた。

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